第101回特別展示                     
総持学園創立80周年記念
         目で見る英米の辞書史
                                
       
   期間 平成16年4月14日(水)〜4月27日(火)
       会場 鶴見大学図書館1階エントランスホール展示コーナー
 
                  鶴見大学図書館 主催
              鶴見大学英語英文学会 企画
      
 
 
 
 
〜ご紹介〜

 今回の展示の特色は、まず何よりも、イギリスの辞書編纂史とアメリカの辞書編纂史を合わせて展示することにある。展示云々を言う以前に、イギリスとアメリカの辞書を合わせて考察したものに本格的なものがない。それほどに英米の辞書史は別個に扱われてきた。私自身もようやく英米の辞書を合わせて考えられるようになった。

 英米の辞書史を考察するには、その資料、辞書そのものを見ることが前提になる。辞書史の展示には、大変な資料収集を必要とする。日本の図書館でどこでも出来るものでもない。幸い、鶴見大学では、文部省の助成などを含め、英米の辞書を収集してきた。英米の辞書史をサミュエル・ジョンソンとノア・ウェブスター無しに語ることは出来ないが、チャールズ・リチャードソン、ジョーゼフ・ウスター抜きの英語辞書史もまず考えられない。
ウェブスター自身の改訂版、それ以後のいくつかの改訂版の持つ意味も大きい。

19世紀の最初の四半世紀は、ジョンソンの増補版を除けば、アメリカがイギリスをリードしていたが、まずイギリスはその事実を認めたがらない。そして、ウェブスターがスコットランドの辞書家に取り入れられ、それがまたアメリカに影響を与えたことは、触れられてはいるが、大きくは扱われていない。その辺の事情を明らかにするには、英米人ではない方が向いているのではなかろうか。そのささやかな試みが今回の展示である。

 次に、英米の辞書史をヨーロッパのパースぺクティヴで捉える試みの、一歩とまでもいかないが、方向性の一歩前進も試みた。ヨーロッパの国語辞典はまずイタリアで始まった。そして、その最初の辞書に匹敵するものは17世紀にはイギリスにない。クルスカ学会の辞書を展示出来ることは、開学80周年記念にふさわしい規模の展示になったかと思う。この点では、お茶の水大学名誉教授木原研三先生に負うところが大きい。神保町の古書店でたまたまお会いし、今回の展示の趣旨をお話したところ、本学にはない『ウェブスター新国際英語辞典』をお貸し下さることになり、その後、先生の教えを受けた土屋順子教授と先生のお宅を尋ね、クルスカ学会の辞書を見せていただき、これもお借りすることになった。全部で5種類、6冊の先生の辞書を展示することになった。木原先生に深く感謝いたします。

                                             文学部教授 本吉 侃
 


 
 
〜展示リスト〜

1.Vocabolario degli accademici della Cursca (1623)
2. Nathan Bailey, An Universal Etymological English Dictionary(1721)
3. Nathan Bailey, Dictionarium Britannicum (1730)
4. Nathan Bailey, Dictionarium Britannicum, second edition (1736)
5. Samuel Johson, A Dictionary of the English Language (1755)
6. Noah Webster, A Compendious Dictionary of the English Language (1806)
7. Noah Webster, A Dictionary of the English Language, Compiled for the Use of Common Schools in the United States (1817)
8. Noah Webster, An American Dictionary of the English Language (1828)
9. Noah Webster, An American Dictionary of the English Language, Abridged from the Quarto Edition of the Author (1829)
10. Charles Richardson, A New English Dictionary (1835-37)
11. Joseph Worcester, A Pronouncing, Explanatory, and Synonymous Dictionary of the English Dictionary ( ? 1855)
12. Joseph Worcester, A Dictionary of the English Language (1860)
13.Chauncey A. Goodrich & Noah Porter (eds.), An American Dictionary of the English Language (1864)
14. John Ogilvie, An Imperial Dictionary, American Edition revised by Annandale (1882-83)
15.James Murray et al., A New English Dictionary on Historical Principles (1884-1928)
16.The Century Dictionary (1889-91)
17.Noah Porter, Webster’s International Dictionary of the English Language (1890)
18.W.T. Harris, Webster’s New International Dictionary of the English Language (1909)
19. Funk & Wagnalls New Standard Dictionary of the English Language (1913)
20. William Neilson, Webster’s New International Dictionary of the English Language (1934)
 

                        
 

〜解題〜

1.Vocabolario degli accademici della Cursca (1623)
 この『イタリア語大辞典』の初版は、1612年に出版され、ヨーロッパの国語辞典の先駆となった。展示本(木原先生架蔵本)は、1623年出版の第2版である。17世紀前半、学問の用語は依然としてラテン語がヨーロッパでは使われていたが(イギリスでもアイザック・ニュートンの『自然哲学の数学的原理』(1687)はラテン語で書かれている)、イタリアでラテン語に対する俗語(=イタリア語)の純化を目指すアッカデミーア・クルスカ(クルスカ学会)の編集したのがこの辞書である。
 見出し語はアルファべット順で、これはすでにラテン語をイタリア語で説明する羅伊辞典で確立していた。この辞書は、イタリア語辞典であるから当然イタリアで定義を与えているが、かなりの部分にラテン語の説明を加える。
 特筆すべきは、ダンテ、ボッカチオなどの引用文が出典とともにあることである。英語辞典でこのレベルに近くなるのは、ジョンソン『英語辞典』(1755)である。
 『イタリア語大辞典』に続いて、フランスで1639年にDictionnaire de l’Acad?mie の編集が始まり、イギリスでも国語辞典の必要性が認識されるようになる。

2. Nathan Bailey, An Universal Etymological English Dictionary (1721)
 英語辞典は、1607年のコードリーの単語集A Table Alphabeticallに始まるというのが定説である。しかし、我々が考えるような辞書、日常使われている語を見出し語とする辞書はイギリスでは18世紀になってからである。その中でネイサン・ベイリー『ユニヴァーサル語源入り辞典』は18世紀前半を代表する。約4万語を見出し語とする。俗語も見出し語とし、四文字語も含む点では20世紀後半の英語辞典と通じる面を持つ。
 書名に見られる語源重視も英語辞典では先駆的である。18世紀前半の語源説明であるから限界はあるが、辞書史上無視できない存在となっている。19世紀後半になっても「探している所ではないが、見れば何かを知る、価値のある古書」との評価もある(『クオータリー・リヴュー』1873年10月号)。
                                              

3. Nathan Bailey, Dictionarium Britannicum (1730)
 ベイリーは、ラテン語を書名とする英語辞典『英国辞典』を1730年に出版する。収録語彙は約4万8千語となる。数学に関する部分をゴードン(G. Gordon),植物はミラー(P. Miller)が資料収集を担当したことがタイトルページに明記されている。
                     

4. Nathan Bailey, Dictionarium Britannicum, second edition (1736)
 ベイリー『英国辞典』の第2版(木原先生架蔵本)で、収録語数は約6万とされる。科学技術用語も見出し語となる。この点ではノア・ウェブスターに先んじる面もある。
 この辞書の定義は優れている。 hobby-horseの定義 “a Stick with a Horse’s Head at the End of it, for Children to ride on.”は、最高の英語辞典とされるOxford English Dictionaryの “a stick with a horse’s head which children bestride as a toy horse”に遜色ない。サミュエル・ジョンソンはこの複合語を見出し語としないで、hobbyの引用例とするだけである。
 綴字でも、18世紀のイギリスではcentre, center; metre, meter; theatre, theaterが併用されていたが、ベイリーはその両方を見出し語とする(ベイリーはcenter にはcentreを見よ、とする)。ジョンソンはcentre, metre, theatre のみを見出し語とする。現在のイギリス綴りcentre, metre, theatreはジョンソンの影響とされる。
 『英国辞典・第2版』を辞書編集史上有名にしているのは、次の挙げるサミュエル・ジョンソン『英語辞典』の種本となったことによる。ジョンソンはこの辞書の頁と頁の間に白紙を挟み、編集を進めた。 
 今回の展示に当たり、ジョンソンと照合した。確かに、ジョンソンはベイリーを基に編集した。無作為に、sign の動詞(見出し語を二人ともTo SIGNとする)から始まる頁を見ても、SIGNAL(名詞), SIGNAL(形容詞), SIGNALITY, To SIGNALIZE, SIGNALLY, SIGNATION, SIGNATURE, SIGNET と、全く同一の定義が続く。ベイリーが定義の区分をセミコロンにしているところを、ジョンソンは語義番号を付けて分けているだけである。現在であれば、剽窃である。しかし、先行の辞書を基に新たな辞書を作るのは、英語辞典の歴史を貫く事実である。

5. Samuel Johson, A Dictionary of the English Language (1755)
  まだ文壇の大御所的存在にはなっていない頃のジョンソンが、事実上一人で編集した辞書である。定義を例証する引用文と基本語の定義で、ほぼ現代の辞書に近くなる。ジョンソンは見出しにアクセントを付すだけであった。発音表示を加えれば現在の英語辞典のレベルとなる。
ジョンソン自身は控えめではあるが、『英語辞典』の翌年に出版された簡略版で、「イタリアとフランスのアカデミーが編集した辞書に似たものを私は最近出版した」と述べている。イギリスにおいても知識人のナショナリズムを満足させる出来事であった。
 ジョンソンはベイリーからの借用も多いが、優れているのは基本語の定義で、ベイリーをはるかに超えている。特に動詞に力を入れている。
 setをベイリーは、 “to put, lay, or place” とするだけであるが、ジョンソンは他動詞で26の語義を与え、その後に成句・句動詞が40も続く。自動詞も24区分になる。ジョンソンが語学者としても抜群の力を持っていたことがわかる。
 定義で有名なのはOATS. A grain, which in England is generally given to horses, but in Scotland supports the people.である。
「イングランドでは普通馬に与えられるが、スコットランドではスコットランド人を養う穀物」とし、ジョンソンのスコットランドへの偏見とともに良く引用される。
 引用例文の多さは誰にでもわかる。ジョンソンの好みを反映してはいるが、大局的な見地から見るならば、ジョンソンを英語辞典編集史上際立たせる存在としているのは引用文である。
 ジョンソンの名声と共に、『英語辞典』は最も権威のある辞書となった。このジョンソンの権威に挑戦したのが、アメリカ人ノア・ウェブスターである。

6. Noah Webster, A Compendious Dictionary of the English Language (1806)
 ノア・ウェブスターは、最初から3種類の辞書出版を考えていた。この『簡約英語辞典』は、「商人、学生、旅行者」を対象とする。約3万7千語を見出し語とする。定義はほとんどが1行で、単語を並べただけのものもある。
 当時アメリカで広く使われていたイギリスの辞書John Entick, The New Spelling Dictionaryを種本とする。

7. Noah Webster, A Dictionary of the English Language, Compiled for the Use of Common Schools in the United States (1817)
  ウェブスターの2番目の辞書『小学英語辞典』(1807)の実質的2版である。初版(図1)は『簡約英語辞典』をさらに簡略にして、生徒用の辞書としたものである。縦17cmの小型な辞書で、序文3頁、発音解説1頁、辞書本体303頁(2段組)、年表3頁から成る。収録語数は約3万とされる。
2版(展示本)では語彙を増やしている。この辞書は珍しいもので、本学図書館の誇りの一つである。
                               
8. Noah Webster, An American Dictionary of the English Language (1828)
 ノア・ウェブスターの代表作で、アメリカの辞書発達史上不朽の地位を保つ。ナショナリズムから生まれた辞書でもあった。
 ジョンソンがベイリーを種本としたように、ウェブスターはジョンソンを種本とした。   
定義だけでなく、引用文も借用している。
 ウェブスターも独自の定義で辞書発達史上に名を残す。また、書名から明らかなように、アメリカ英語の記述・アメリカの作家からの引用で先見性を示す。
 問題は、語源である。当時発達しつつあった比較言語学を全く無視した、恣意的な語源説である。1835年のイギリスの雑誌『クオータリー・リヴュー』で、でたらめな語源が批判されて、イギリスでリプリントする必要はないとまでけなされている。この語源が1864年まで残ったことにも問題があった。
 
9. Noah Webster, An American Dictionary of the English Language, Abridged from the Quarto Edition of the Author (1829)
 ノア・ウェブスター『アメリカ英語辞典』の簡約版で、ジョーゼフ・ウスターの編集である(展示本は1834年刷り)。収録語数は親版より多い。語源は極く簡単、引用例文を省く。定義も簡潔で、この簡略版は良く出来ている。
 編集能力に優れたウスターが、1830年に自分の辞書A Comprehensive Pronouncing and Explanatory Dictionary を出版する。発音に詳しく、好評であった。
 このウスターの辞書を、ウェブスターが1834年の雑誌で自分の辞書の剽窃と批判する。ここから、ウェブスター対ウスターの「辞書戦争」が始まる。

10. Charles Richardson, A New English Dictionary (1835-37)
  リチャードソンの『新英語辞典』は、定義は一つ、それも極めて短いものである。これは当時イギリスで一部にもてはやされた「新しい言語理論」(ホーン・トゥックの説)に基づいたためである。したがって、辞書の重要な部分である定義ではこの辞書は辞書史に貢献するところはない。
 優れているのは、イギリス文学からの引用で、ジョンソンを超えて14世紀に遡り、歴史的に古いものから新しいものへと配列していることにある。これを徹底させたのが『オックスフォード英語辞典』(OED)である。その意味でこの辞書は辞書史上無視できない存在である。

11. Joseph Worcester, A Pronouncing, Explanatory, and Synonymous Dictionary of the English Dictionary ( ? 1855)
 ウスターの高校生用の辞書であるが、背表紙には『家庭用辞典』とある版である(木原先生架蔵本)。実質的に、ウスターのA Comprehensive, Pronouncing and Explanatory Dictionary (1830)の増補版である。ただし、類義語解説が入ったことは大きい。
この辞書に先立ち、ウスターは1846年にA Universal and Critical Dictionary を出版していた。この辞書は『アメリカ英語辞典・簡略版』に匹敵する内容でメリアム社は脅威を感じてたはずである。『ユニヴァーサル』が1853年にロンドンの出版社から出版された。その書名・タイトルページをメリアム社が問題とし、ウスター攻撃を強めた。英国版にはWebster’s and Worcester’s Dictionary と背表紙に書かれ、タイトルページには「ウェブスターの材料から編集された」とある(図2)。ここにかつての「辞書戦争」が激化した。販売合戦にとどまらず、編集にも影響を与える。
ウスターが『アメリカ英語辞典』(1847)に匹敵する大辞典を挿絵入りで出版するとの噂で、メリアム社は挿絵入り版An American Dictionary of the English Language, Pictorial Edition 1859)を出版する(表紙の写真)。
 挿絵はスコットランドのオゥグルヴィ(John Ogilvie)の2巻本The Imperial Dictionary (1847?50)の挿絵を真似る。『インピリアル辞典』は、『アメリカ英語辞典・第2版』を基に編集を始め、グッドリッチ編(1847年版)を使い、科学技術用語を加え、百科辞典的説明を追加したものである。ウェブスターはイギリスでも実用的な辞書としての評価は高かった。

12. Joseph Worcester, A Dictionary of the English Language (1860)
 ウスターの最高傑作といわれる大辞典である。収録語彙10万4千語で、挿絵が入る。引用例文は依然としてジョンソンに依存するところが多いが、独自の優れた引用文もある。『アメリカ英語辞典』(1859)より優れるが、次のウェブスターに越される。この辞書は一度再版されただけで、消えてゆく。後継者を持たなかったことはアメリカ辞書界の不幸であった。英国版も出る。

13. Chauncey A. Goodrich & Noah Porter (eds.), An American Dictionary of the English Language (1864)
 『アメリカ英語辞典・絵入り版』(1859)は、前付けに挿絵と類義語解説を入れ、巻末に補遺を付けたもので、急ごしらえの感の免れぬものであった。それに対してこの版は、『絵入り版』以前から進んでいた語源の大改訂がドイツの言語学者C.A.F. Mahnによってなされ(ウェブスター・マーン版と呼ばれる)、ノア・ウェブスター語源の問題点をほぼ解消するものであった。定義もかなり改訂されて、アメリカだけではなく、イギリスでも評価される出来である(英国版も出版された)。1873年のイギリスの雑誌『クオータリー・リヴュー』は、ウスター(1860)は「大部分の点でウェブスター・マーン版に劣る」とする。
 展示されているのは、英国版(木原先生架蔵本)である。

14. John Ogilvie, An Imperial Dictionary, American Edition revised by Annandale (1882-83)
 オゥグルヴィの『インピリアル辞典』は、グッドリッチ編『アメリカ英語辞典』増補版と言ってもいいものである。ただし、ベイリー『英国辞典』以来の挿絵を入れているところと百科事典的説明が違う。1855年には補遺が加えられ、それを同じくスコットランド人アナンデール(Charles Annandale)が改訂し、百科辞典的要素がさらに強まった。そのアメリカ版が展示品である。16で取り上げる辞書の基となる。

15. James Murray et al., A New English Dictionary on Historical Principles (1884-1928)
  歴史的原理に基づき、語の発達を、見つけられる限り最も古い用例から辿る。1858年から準備が始まり、最初の20年は編集のための資料集めに費やされる。マレーが編集長となってから原稿が書き始められた。1828年に10巻で完結する。書名は後にThe Oxford English Dictionary (OED)と改名される。
 見出し語414,825、引用文約200万で、「英語の歴史の知識の宝庫」とされる(『英語学辞典』)。
OED完成前に、ファウラー兄弟(F.G. Fowler & H.W. Fowler)により1811年にThe Concise Oxford Dictionary, 1924年にThe Pocket Oxford Dictionaryが出版される。ともに、極めて優れた辞書で、OEDの権威とともにオックスフォードはイギリスの辞書のブランド名となった(アメリカではウェブスターが19世紀からブランドである)。
 図書館の参考図書棚に置かれているOEDは、1989年出版の第2版である。

16. The Century Dictionary (1889-91)
 アナンデール改訂になる『インピリアル辞典』を基に編集されるが、元版をはるかに超える優れた辞書(収録語数20万)である。監修者ホイットニー(William D. Whitney)は世界的なサンスクリット学者であった。語源はアメリカでこれほど詳しいものはいまだにない。定義も明晰・正確であり、1911年の改訂増補版(収録語数約53万)は、今でも第1次世界大戦以前のアメリカ英語では最も頼りになる。
 OEDも『センチュリ辞典』から2,118箇所の引用をしている(The Oxford Companion to the English Language)。
 挿絵は特筆に価する。中には、シートン(Earnest T. Seton)の描いたものもある。 
 詳細な百科事項が、20世紀の科学と技術の急速な発展により、改訂を困難なものとした。

17. Noah Porter, Webster’s International Dictionary of the English Language (1890)
 メリアム社ウェブスター1864年版の改訂である(展示本は1892年刷り)。収録語数17万5千で、ウェブスターのこれまでの歴史で最も大きな改訂であった。『ウェブスター国際英語辞典』は、少なくとも理念の上ではグローバルなものとなる。市場がイギリスだけでなく、アフリカやアジアにおけるイギリス植民地、そしてヨーロッパへと拡大したことの反映でもあった。

18. W.T. Harris, Webster’s New International Dictionary of the English Language (1909)
 展示(木原先生架蔵本)は1824年刷りとインディアペーパー版1928年刷りである。35万語を収める。下段(6段組)に、あまり重要でない語をポイントを落とした活字で印刷している。内容的にも大きな改訂である。新聞、週刊誌をも語彙収集の対象とする。専門語には分野別に編集者が決められる。一般的な語の定義にもさらなる正確さを追求し、語義の配列もOEDを参考に修正をする(序文にOEDに追うところが大きいことが述べられている;1909年にはまだOEDは完成していない)。

19. Funk & Wagnalls New Standard Dictionary of the English Language (1913)
  Funk & Wagnalls Standard Dictionary of the English language (1893-94)(2冊本)の改訂版である。1894年に1冊本も出版され、収録項目30万4千で、1冊本では最大の英語辞典であった。語義の提示に新規軸を出す。定義の配列を歴史的に古いものから新しいものへの順ではなく、使用頻度の高いものを最初にもってくる。語源は見出し語の後ではなく、定義・引用例文などのあとに置く。読者が最も早く必要な情報を得るためと言う。この語義の配列を、メリアム社を除き、その後のアメリカの辞書は踏襲することになる。
 1894年の時点で、アメリカは英語辞典の分野でイギリスをはるかに引き離す。
 『新スタンダード』は、2千8百頁で、固有名詞を含む収録項目は45万である。この辞書は補遺を追加しながら、1960年代まで出版され、日本でも広く使われた。

20. William Neilson, Webster’s New International Dictionary of the English Language (1934)
『ウェブスター新国際英語辞典・第2版』は、付録の固有名詞を含めて収録項目約60万である。アメリカでは、意味・発音・語法での最高の権威とされた。『新スタンダード』を振り放して、別格の存在であった。1冊本では20世紀前半最高の英語辞典である。
 文学作品からの引用にも優れており、日本にも愛用者が多かった。
 1961年にWebster’s New International Dictionary, third edition が出版される。この『ウェブスター新国際英語辞典・第3版』は、記述主義に徹した編集方針で、ジャーナリズムの批判を浴びた。しかしながら、この辞書が20世紀後半の1冊本英語辞典で最も優れていることに反対する辞書研究家はいないであろう。
 

                                           解説  本吉 侃